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Book review

世俗の思想家たち​ 著 ロバート・L・ハイルブローナー

本書は、アメリカ革命の時代に生きた古典派経済学の父、アダム・スミスの『国富論』からはじまり、共産主義を主張して社会主義と労働運動に強い影響を与えたマルクス、市場への政府の積極的な介入の必要性を説いたケインズ、企業家(生産革命者)とその革新活動が資本主義システムにおける利潤の源泉だと説いたシュンペーターなど、偉大な経済学者たちが遺した経済思想について書かれている。彼ら経済学者たちが扱った思想は人々の日々の労働生活に重大な影響を与え、世界を揺り動かす力があった。人格も経歴も思想も異なる彼らに共通しているのは、身の回りの世界の複雑さと上辺の無秩序への好奇心である。彼らは思想体系の中に、人間のあらゆる活動の中で最も世俗的な行動である富への衝動を組み入れようとし、「世俗の思想家」と呼ばれた。経済学の中心をなすのは、社会の歴史の秩序と意義を探究することであり、それが本書の中心テーマとなっている。本書を読むことで、私たちは歴史を形成する思想を巡りながら、偉大な経済学者たち自身を知ることができる。私は本書を読むまで、経済学者の名前と思想を断片的にしか知らなかったが、本書を通して思想の流れや時代背景とのつながりを見ることができて大変興味深かった。
 また筆者は、経済学の目的は、「予見しうる未来に向け、われわれが集団としての運命を形づくっていかざるをえなくなるであろう資本主義の環境について、よりよく理解するのを助けること」だと述べている。現実の経済の行方が不透明で、緊張が予見される現在において、このような世俗の思想は、経済的に成功すると同時に、社会的にうまくいく資本主義が必要であることやその可能性に対して新たな自覚を発展させ、将来を見通すための手がかりとなるだろう。

​ちょっと気になる社会保障 V3 著 権丈善一 

本書は社会保障の入門書であり、社会保障というシステムの根本から分かりやすく書かれている。恥ずかしながら私は社会保障についての知識があまり無く、公的年金は保険であるということくらいしか知らなかったため、本書を読んでいて初めて知ることが多く、面白かった。
本書では、まず「社会保障は何のため?」という問いから始まり、この一年に生産された財・サービスを消費する権利の再分配制度や、将来の生産物への請求権としての公的年金の基本的な役割について述べられている。農業社会から賃労働者が主体となる社会になったことで定年という考え方が生まれ、高齢者の貧困につながり、公的年金が必要とされるようになったという部分を読んで腑に落ちた。
 次に、「社会保障は誰のため?」という問いでは、まず税による貧困救済である救貧制度の性質について述べられている。しかし、社会保障の中でもそうした役割を担う公的扶助は今の日本では社会保障給付費の3%台しか占めておらず、9割近くは社会保険が占めている。この社会保険は所得の高い人から低い人への垂直的再分配に加えて、個人の力だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対して皆で助け合う形としての保険的再分配、さらには個人あるいは家計のライフサイクルにおける時間的な再分配を行うことにより個々の家計の「消費の平準化」を果たしている。つまり、社会保険は中間層の貧困化を未然に防ぐ「防貧機能」を果たしており、中間層のためにあると言える。社会保障と言えば、中間層ではなく貧困層への援助が中心なのではないかという印象を持っていたため、中間層の貧困を防ぐ「防貧機能」が主であることは意外だった。
 その他にも、本書では社会保障が果たす3つの機能や、社会保障規模の国際比較と財政、今進められている社会保障の改革などについても述べられており、日本の社会保障制度の現状を学ぶことができる。社会保障について正確な理解をするためにも、繰り返し読み込んでいきたい。

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